あの運命の出逢いから数週間が過ぎ去っていた。
鈴子はいつもの毎日を今日も過ごしていた。
心の中にはあの時の奏司への想いが溢れていたとしても。


「おはよ」


鈴子はあの日から毎日遅刻せずに学園へと通っている。


「鈴子~おはよ~」


鈴子はクラスの友達たちに挨拶を交わしている。


「ねえねえ、鈴子聞いたよ~また告られたんでしょ?やるわね相変わらず」


「その話はいいよ」


「まーた、謙遜しちゃって」


「謙遜じゃないの、今は彼氏とかそういうのいらないから」


「なに?まさか好きな人いるの?」


「・・・・」


鈴子のそんな黙りに友達は何かを察した様子だった。


「そか、でもさ、鈴子みたいにモテすぎるのも大変よね」


「うんうん」


「別に私は普通だから、ほんとに今は彼氏とか必要ないなって思ってるだけ」


奏司の事は胸の中に想いを秘めながらもあの日から考えないようにしていた。


そしてある日のホームルーム、鈴子は運命の再会をする事になった。


「はーい、席に着いて、本日はホームルームを始める前に転校生を紹介したいと思います
じゃあ入って来なさい」


そう先生に言われ教室へと一人の生徒が静かに入ってくる。


「・・・・」


鈴子は窓の外を眺めて転校生の存在にまだ気付いていない。


「自己紹介して」


「初めまして三森奏司です、よろしくお願いします!」


「・・・!!」


その声に鈴子は顔を真っ直ぐ向ける。


(ウソ・・・なんで奏司くんが?)


鈴子の心はドキドキと戸惑い、2つの想いに締め付けられていた。


「それじゃ黒川さんの隣に座ってもらえるかな?」


「はい」


トクトク鼓動がうるさい、近付いてくる彼の足音、私は不意にも視線を背けてしまっていた、私の前に足音が止まる。



「よろしく」


見上げた先に彼の優しい笑顔があった。


「よ、よろしく」


(恥ずかしい?ううん、照れてしまって彼の顔をまともに見れないだけだ)


こうして波乱の学園生活が始まった、だけど私は授業なんて自分の心臓のドキドキ感で何も頭に入って来なかった。


お昼時皆が教室を後にして学食へと向かう中、私は突然声を掛けられた。


「暇なら一緒に飯食わない?ん?」


突然の出来事に驚く鈴子・・。


「え?どうして私なの?」


「う~ん何となく?それに学園案内して欲しいんだよ、だめ?」


そんな奏司のお願いに鈴子は・・・。


「う、うん、分かった、案内してあげるよ」


「ん?マジ?ラッキー❤」


「あ!」


彼の眩しすぎるくらいの笑顔が鈴子の胸に溢れて止まらなくなっていた。


「ん?なに?俺の顔変?」


じーっと見つめていた事がバレてしまった、鈴子は慌てて返事をする。


「へ?ううん、何でもないよ、ちょっとボーッとしてただけ」


「そう?じゃ案内ヨロシコ❤」


「はい、分かりましたよ」


二人は教室を後にすると校舎内を見て回る事にした。


どれくらい経っただろうか?ある程度案内し終えて図書館へと足を運んだ。


「へぇ~いい所じゃん、ここも綺麗な場所だし、気に入ったよ」


何気に鈴子へと向けた笑顔、それは鈴子の胸を熱く締め付けるのに十分だった。


(んっ、苦しい、こんな近くに居るからなの?胸がドキドキして死んでしまいそう)


「ん?大丈夫か?」


そっと鈴子の額に手を当てる奏司。


「きゃっ!触らないで!」


鈴子は驚きのあまりその手を振り払ってしまった。


「ごめん、イヤだった?触られんの?」


「あ!ち、違うの!いきなりだったからビックリしただけなの!イヤじゃない、イヤなんかじゃないから!」


必死になって誤解を解こうとする鈴子に奏司は笑い始めた。



「ハハハ、あ、ごめんごめん、何でそんなにも正直なのかなって思ってさ、ほんと変わってるよな」



「そんなに笑う事ないでしょ、本当にビックリしたんだから!」



「ああ、分かってるって、ごめんな?」



「もういいよ、それより案内は終わりにしてお昼ごはんにしようよ」


「ん?ああ、そうだな、ありがとう、案内してくれて、助かった」



「うん、どういたしまして❤」



「あ!」


とびきりの鈴子の笑顔、それは破壊力抜群の可愛すぎる笑顔だった。


「ん?な~に?人の顔見つめて」


「あん?あ、いや、べ、別に、ハハ」


「変なの」


そう言い鈴子は歩き始めた。


(やっべ、あの笑顔はズルいだろ)


この時奏司の中で少しずつ何かが変わり始めた瞬間だった。


「げぇ~めっちゃ混んでる、マジ?」


「仕方ないよ、今の時間は食堂混む時間帯だもん、どうする?」


「どうするって~どうしよ?」


「やめる?」


「イヤだ!」


「も~子供みたいに拗ねて、う~ん外に食べに行く?」


「そだな、外に食いに行くか」


「うん」


奏司と鈴子は外に食べに行く事にした。


「乗れよ」


そう言いヘルメットを鈴子へと渡す。



「う、うん」


鈴子はヘルメットを受け取るとそっと後ろの座席へと跨がった、そして静かに走り出すバイク。



「ねえ!何処に行くの?」



「俺の知ってる所!しっかり掴まってろ!」


そう言われ鈴子はギュッと奏司の背中に回す手に力を込めた。


「・・・・・・」


「んん」


しばらくしてバイクが止まる、着いたのは洒落たカフェだった。


「ここでいい?」


「うん、ここって」


「そうだな、あんま子供は来ないかな、大人のカフェみたいな感じ?」


「そうなんだ」


「場所変えるか?」


「ううん、大丈夫、ここでいいよ」


「そ?行こ」


「うん」


二人はそっと中へと入っていった。


「いらっしゃいませ、何名様ですか?」


「二人」


「かこしまりました、こちらの席へどうぞ」


案内された席へと移動し席へと座った。


「ご注文は?」


「おすすめランチで、あとコーヒー」


「あ、私も同じで、あとオレンジジュースをお願いします」


「かこしまりました」


「ねえ、ここよく来るの?」


「ん?ああ、まあね」


「一人で?それとも彼女、とか?」


鈴子の胸はこの時少しチクリと痛んでいた。


「なに?気になる?俺の事、ん?」


「べ、別に、そ、そんなんじゃない!」


「ふふ、一人だよ、彼女とかいない」


「そうなんだ、モテるのに?」


「まあモテるけど❤」


「そこは謙遜する所だよ」


「謙遜?俺素直だから❤」


「あー言えばこー言うんだから、もう」


「ふふ」


出会いから現在まで二人の関係はグッと近くに接近していた。


「お待たせいたしました」


料理が運ばれてくる。


「ごゆっくりどうぞ」


「さ、食べようぜ」


「うん、いただきます」


「いただきま~す」


二人は静かに料理を食べ始めた。


「美味しい?」


「美味しい」


「気に入った?」


「うん❤」


そう言う鈴子のとびきりの笑顔、それはあまりにも可愛すぎる笑顔だった。


「あ、ああ、よかった」


(こいつワザとか?)


奏司の心は今の鈴子の笑顔で既にやられてしまっていた。


「お前は?」


「え?」


「彼氏いないの?」


「いない、と言うか誰とも付き合った事ないから私、へへ」


「へぇ~意外だな、めっちゃかわいいのに」


「んん!ゴホゴホ!か、かわいいって!」


「いや普通に可愛すぎるだろ、まさか自覚してないのか?」


「・・・・・・」


「ああ、自覚はあんのね(笑)」


「付き合ってって言われた事はあるの、でもその気にもなれなくて、夢もあるし」



「夢?」



「宝塚に入りたいの」



「宝塚?へぇ~すげぇーな!」



「もちろん受かればだけどね」



「受かるさきっと、応援してる」



「うん、ありがとう❤」



「だからやめろって」



「へ?何が?」



「何でもない」



「ん?変なの」



「うっせぇーよ」



「ベーだ」



「可愛くねーよ、ベーだ」



「可愛くない」


こうして楽しい昼食も終わりを迎えた。



「戻るか?」



「うん」


バイクに跨がりエンジンをかける、そっと鈴子は奏司の背中に手を回した、そして学園へと静かにバイクは走り出した。


学園へと戻ってきた二人は静かにバイクを降りた、そして・・・。


「じゃあ戻ろ」


歩き出した鈴子を奏司が止めた。


「鈴子!」


ふいに名前を呼ばれ鈴子は足を止めた。


「え?」


「鈴子!」


「は、はい!」


「なあ、俺と付き合わない?」


突然の告白に鈴子の胸は高鳴りドキドキが止まらなかった。


「俺じゃお前に相応しくない?」


「そんな事ない、そんなんじゃない」


「人って単純な生き物だよな、出会ってから短いのに気が付いたらお前に意識が向いていた、そして気が付いたらお前をす気になった」


「・・・・・・」


「好きだよ、鈴子」


「う、うう」


鈴子の目から涙が溢れる、きっと嬉しくて嬉しくて我慢が涙として溢れたんだ。


「・・・・・・」


奏司は優しく鈴子の身体を抱きしめた。


「俺の事好き?」


「好きだよ、初めて出会ったあの日からずっとずっと好きだったよ!」


「ほんと?嘘じゃない?」


「嘘じゃない、好きで好きでたまらないの」


「俺も好きでたまらない」


鈴子はギュッと強く奏司の身体を抱きしめた。



視線がぶつかる、潤む鈴子の瞳、そして二人の唇は静かに近付いていった。


「んっ❤」


初めてのキスは切なくて甘い恋の味がした、二人の愛が今動き出す。