あれは私がまだ声優になる前の学生時代の出来事
当時私には付き合っていた彼がいた
恋の始まりと出会いは私の一目惚れだった。
「あ~まただよ、目覚ましセットしたのに鳴らないなんて、ほんと最悪だよ!」
これで何度目の遅刻ギリギリだろうか?
今日も慌てて学園へと急いでる鈴子だった。
駅のホーム、出発のベルが鳴る。
「あ!待って!乗ります乗ります!待って!」
急いで扉が閉まる電車に飛び乗ろうとしているが時間とは残酷なモノである。
「ドアが閉まりま~す、閉まります扉にご注意下さ~い!」
無情にも扉は閉まり電車が走り出してしまった。
「そんな~!」
ガクッとその場に座り込む鈴子、そして携帯を開いて時間を確認した。
「絶対間に合わないよ、どうしよ~?」
泣きそうになるのを必死に堪えていた、仕方なくホームを離れベンチへと腰を掛けた。
「はぁ~、ここに居ても何も出来ないし、とりあえず家に帰ろ、今日は休むしか無いかな?」
と、ポケットに手を入れ財布が無い事に気付く。
「あれ?財布がない!まさか落とした?何でこうなるの?ほんと最悪だよ!」
鈴子は慌てて辺りを探したが財布は落ちていなかった。
「どうしよ~!」
するとその時、鈴子は声を掛けられた。
「あの」
「え?」
振り向くとそこには一人の少年が立っていた。
「あ!」
鈴子は視線を奪われる、立っていた少年は漫画の主人公の様な美少年だったからだ。
「え、え?」
「あの!」
「は、はい!」
鈴子は動揺していたがなんとか返事を返した。
「何か?」
「これ!」
すると少年は財布らしき物を鈴子へと差し出した。
「それ私の財布!どうして?」
「さっき落としたろ?見えてたから拾って追いかけて来たんだ」
鈴子は財布を受け取り安堵した。
「良かった~、ありがとう」
笑顔で少年にお礼を言った。
「別に大した事をしたつもりはない、じゃあ俺行くから」
そう言うと少年はその場を離れようとした、鈴子はとっさに声を掛けていた。
「あの!」
「なに?」
「ええ~っと、あの、だから、その!」
言葉が続かない。
「はぁ」
ふと彼がため息を溢した、鈴子はそんな彼の顔を見つめた。
「学校どこ?どうせ、電車乗り遅れたんだろ?財布探してたくらいだからな」
「いいの?」
「別に、行くぞ」
そう言うと彼は駅のホームを降りて行った、鈴子はそんな彼の後に着いていく。
するとそこにはバイクが停めてあった。
「良かったな、さっき友達を送ってきたからメットもう一つあったんだ、ほら!」
そう言うと彼はメットを鈴子へと投げて渡した。
「あ!」
「乗れよ、学校までだろ?」
「うん」
鈴子は返事をすると後ろの座席へと跨がり彼の体に腕を伸ばした。
「行くぞ」
バイクが静かに走り始めた。
「学校どこ?」
「え?何?聞こえない!」
「学校はどこだって聞いてんだよ!」
「ああ、海ヶ丘学園って分かる?」
「ああ、よく知ってる、分かった、しっかり掴まってろよ」
そう言うと彼はバイクを思いっきり飛ばした。
「きゃっ!」
鈴子は可愛い悲鳴をあげて彼の背中にしっかりと抱きついていた。
バイクが走り始めてしばらくして鈴子の学校である海ヶ丘学園が見えてきた。
バイクが校門の前で静かに停まる。
「間に合って良かったな」
彼はメット越しに鈴子にそう言った。
「うん、本当にありがとう、間に合った」
「もう遅刻すんなよ?いつも俺がいる訳じゃないんだから」
「分かってる、気を付けるよ」
「ふふ、じゃあな」
彼が走り出そうとした時鈴子は声を掛けた。
「ねえ!」
「あ?」
「名前教えてよ、貴方の名前」
「奏司、三森奏司だ、あんたは?」
「私は鈴子、黒川鈴子」
「鈴子・・・ね、またな!」
そう言うと彼は走り去って行った。
「ん?またなって・・・何でだろ?」
その時の彼の言葉の意味が鈴子には分からなかった
でもそれは近い内に現実となる事に鈴子はまだ気付いてなかった。
「奏司、三森奏司くんか・・・」
(何だろ?胸が熱い!どうしてドキドキしているの?もしかして私・・・私!)
そっと彼が去った後を鈴子は見つめていた。
鈴子はこの時既に奏司に惹かれていた。
「あ!遅刻遅刻!」
慌てて学園へと入って行った鈴子だった。
この運命の出会いから鈴子とそして奏司の
切なくて苦しくてだけど愛しい愛の物語が始まろうとしていた。
そして再会の時を迎える。